虎が愛でし一輪の花(7)

web拍手 by FC2        
 小太郎が背中を流すと頑張っていたけれど、そこは丁重にお断りしての一人風呂。
 え? 小太郎? アイツは帰宅早々に風呂場へと押し込んだよ。だって外は寒かったから、小太郎にはさっさと風呂に入って温まって欲しかったんだ。大人になるにつれて熱を出す回数も減っては来たけれど、無理をさせれば体調を崩してしまうから。
 その間僕が士郎の手伝いをさせられてしまったけれど、それはまあ仕方ない。小太郎はちょっぴり拗ねてしまったけど、僕は悪くないと思う。

 一人でゆっくり湯船に浸かると、思い出すのは琥珀のこと。
 今頃琥珀はどうしているのだろうか。このところすっかり定期連絡と化しているメールを思い出して、僕はぶくぶくとお湯の中に沈んだ。

(分かってるんだ……悪いのは、僕だって)

 あれは、一年ほど前の寒い時期。僕が獣人界に戻って来て、一年半くらい過ぎた頃だったと思う。



 獣人界と言っても、人間界でいう地方の田舎町と大差は無い。携帯だって使えるし、インターネットだって使える。どういう仕組みがあるのかは分からないけれど、きっとこの世界を牛耳ているお偉いさんが、何かしらの仕掛けを施しているのだろう。
 結界を張り巡らせてこの世界を守るような存在であれば、その程度のことは訳なく出来るんじゃないかと思っている。
 だから僕も、内心面白くは無かったけれど、獣人界へ戻ることを了承したんだ。例え琥珀と離れていても、電波が通じれば話も出来るしメールも出来る。繋がりが切れることはないって、そう自分に言い聞かせていた。
 ほぼ毎日交わしてしたメールと、週に一度の約束で交互に掛け合う電話。それが僕を支えてくれていた。会うことは叶わなくとも、それだけでホッと出来る自分がいた。
 だからこそ、甘えが出たのだろう。

「ねえ琥珀」
『何だ? 帰って来たくなったか?』
「まだ無理だよ。そうじゃなくて――琥珀は、僕に会いたいと思わないの?」
『突然何を言い出すかと思ったらそんな事か』
「っ、そんな事って、そんな言い方無いだろ!」

 僕が獣人界に戻って来てから、琥珀とは一度も会ってはいない。時折人間界に住む兄弟の所へ行くことがあっても、琥珀と暮らした部屋には立ち寄らずにいた。行けば、獣人界に帰りたくなくなるって分かっていたから。
 一方の琥珀も、一度だって会いに来てはくれていない。かつては自分も暮らしていた集落だ。遊びに来ることくらい、簡単に出来るはずなのに。

『言っただろう? 俺はここで、お前の帰りを待ってるって』
「だけど、琥珀は一度も、僕に会いたいって言ってくれないじゃないか……本当は僕みたいに面倒な子供から解放されて、せいせいしてるとか?」

 心にも無いことを口にした自覚はあった。けれど一度口から零れ落ちた言葉を回収することは、不可能だ。言ってしまった言葉に青褪める僕の耳に、大きな溜息が聞こえる。

『本気で言ってるのか、吾郎』
「う……だ、だって、琥珀が悪いんじゃないか。全然寂しそうな感じもしないし、会いたいって言うのもいつだって僕ばっかりで」

 グッと温度の下がった琥珀の声に身が竦む。出していた耳がぺたんと垂れてしまったのが分かる。滅多に怒らない琥珀が、怒っている。

『それで? 俺がお前以外の番を見付ければ、吾郎は満足するのか?』
「そんなこと言ってな――」
『もういい、この話は終わりだ』
「何だよ終わりって! 疚しいことがあるから話したくないんじゃないの? 煩いのがいなくなってホッとしてるんだろ!」

 ああ、止めろ、止めるんだ……頭ではストップと信号を出し続けているのに、一度膨れ上がった感情を宥めることが出来なかった。

『いい加減にしろ、お前は俺を信じられないのか? お前がそんな風に考えていたなんて、ガッカリだ』
「好きだから信じられないんじゃないか! 琥珀の馬鹿! もういいよっ!」
『……そうか、分かった。お前は少し頭を冷やせ。切るぞ』
「勝手にすれば良いだろ? もう電話なんて掛けてやらないし出てもやらないんだからな!」

 僕の怒鳴り声を琥珀が聞いたのかどうかは定かじゃない。でも、叫び終えた僕が我に返った時にはもう、通話は終了していた。



← (6) Back ★ Next (8) →

◆いつも応援ありがとうございます(*´∀`*)

長期連載久々過ぎて、ペースが掴めない……(;´Д`)

続きを待ってるよ!と仰って下さる優しいお方は是非クリックを┏○ペコ
村・さくらんぼ にほんブログ村 (別窓)
ランキングに参加しております。(1日1回有効です♪)
書き続ける原動力に繋がっております!読了後、お気に召したらポチッと一押しお願いします!

at 02:05, 柚子季杏, 【虎が愛でし一輪の花】

comments(2), trackbacks(0), - -

虎が愛でし一輪の花(6)

web拍手 by FC2        
 だから僕は、自分を気に掛けて構ってくれる琥珀のことが好きだった。兄弟達に甘えられない分まで甘えていたように思う。
 5年も早く生まれている琥珀にしてみれば、僕なんかの相手をするのは大変だっただろう。体力も出来ることも大きく違う。彼にとっては思い切り遊べる相手には程遠い。
 それでも琥珀は僕が一人でいることに気付けば、必ず声を掛けてくれた。
 キャッチボールもサッカーも、琥珀に教わったと言っても過言じゃない。尤も、キャッチボールは琥珀が優しく投げてくれた球を取り損なうし、投げたボールは暴投するし。サッカーなんて単なる球転がしレベル。あまり運動が得意じゃないんだから仕方ないだろう? そんなレベルでも、僕は楽しかったんだ。


 7、8歳の頃だろうか? 小太郎が寝込めば、自分だけ元気なのが申し訳なくすら思えて。苦しそうに息をする小太郎の傍ではしゃぐことも出来ず、かといって公園まで出向く気にもなれずに、僕は大抵一人で庭で遊んでいた。
 遊ぶといっても一人じゃやれることも限られる。
 蟻の行進を眺めてみたり、字もろくに読めない歳だったけれど写真なら分かるからと、家にあった植物図鑑と、庭に生えている草花を照らし合わせてみたり。

「なんだ、吾郎。お前、また一人か?」
「……コタ、お熱出たから」
「そっか――――ココア飲むか? 母ちゃんに作ってもらうけど?」
「っ、飲むっ」

 この時もそうだ。庭で一人しゃがみ込んでいた僕に、通り掛かりの琥珀が気付いてくれた。
 士郎に一声かけてから琥珀の家に上がり込み、胡坐を掻いた彼の足の間に座って飲んだ甘いココアの味は、今も鮮明に思い出せる。
 虎属性ということもあるのだろう。人型になっている時も琥珀は大きくて。大きいのは身体だけじゃなく心もで、僕はいつだって、すっぽりと包み込まれる感覚にとても安心出来た。

 いつだって僕を……小太郎ではなく、僕を気に掛けてくれていた琥珀。
 成長するにつれて、素直に感情を出すことが上手く出来なくなった僕も、琥珀といる時だけは本当の自分でいられた。ワガママを言っても、きつくあたっても、ふっと微笑む琥珀の笑顔と、優しい瞳に救われてきたんだ。

「琥珀は僕なんかといて楽しいの? 友達と遊びたいんじゃないの?」

 一度だけそんな質問をしたことがあった。「琥珀にあまり迷惑を掛けるな」と、太郎だったか次郎だったかに言われたすぐ後だったように思う。
 その頃には自分で自分が、外で遊ぶよりも室内で読書をしたりDVDを見たりする方が好きだと分かっていたから、一人で過ごすことにも慣れて来ていて。寂しさは感じるけれど、一人でも大丈夫だと、そう思えるようになっていた。だから聞けたのだ。

『本当はお前の相手するのも大変なんだ』
『飽き飽きしてたんだ』

 例えそんな言葉が帰って来ても、僕のことなら気にしなくて大丈夫だよと言える。そう思えるようになったからこその質問だった。

「俺達の種は、元来群れで行動はしないからな。学校から帰ってまで、他の奴らとつるもうとも思わない」

 恐る恐る問い掛けた僕に、琥珀は何でも無いことのように答えてくれたんだ。

「第一ただこうして一緒にいるだけで、俺が取り立てて何かしてやってるわけでも無い。迷惑な事なんて、吾郎は何一つしてないじゃないか」
「……琥珀」
「それにお前、本読んでると場面に合わせて表情が変わるの知ってたか? それを見てるのは結構楽しいぞ」
「嘘っ! 知らないよ、そんなのっ」

 僕がそれ以上気にしないために、だと思う。琥珀は最後に笑い交じりでそう言って、僕の頭を撫でてくれた。わしわしと撫で回される大きな手から、身を捩って逃げようとする僕を逆手でホールドしながら、笑い飛ばしてくれた。

 優しい琥珀、大好きな幼馴染。その「大好き」の意味合いが、恋愛感情の「大好き」だと気付いたのは、いつのことだろう。気が付いた時には琥珀のことが好きだったのだ。





「琥珀……元気かな……」



← (5) Back ★ Next (7) →

◆いつも応援ありがとうございます(*´∀`*)

また時間が空いてしまいましてすみません(汗)
先日書いてたお仕事はちょっとボツになってしまいして
再び慌ただしく動く毎日になってしまいました(;´Д`)
お財布事情が真面目に厳し過ぎて……早く働きたい(泣)

それはそれ、これはこれ、ということで、今後はもう少し
ペースUpして更新して行くつもりです。
お付き合いの程お願い致します!

続きを待ってるよ!と仰って下さる優しいお方は是非クリックを┏○ペコ
村・さくらんぼ にほんブログ村 (別窓)
ランキングに参加しております。(1日1回有効です♪)
書き続ける原動力に繋がっております!読了後、お気に召したらポチッと一押しお願いします!

at 23:10, 柚子季杏, 【虎が愛でし一輪の花】

comments(3), trackbacks(0), - -

虎が愛でし一輪の花(5)

web拍手 by FC2        

 思い出の中に沈み込みそうになる僕の目の端に、ふるっと身体を震わせる小太郎の姿が映った。気付けば周囲はすっかり暗くなっている。

「帰ろうか。いい加減士郎が怒りそうだ」
「うんっ」

 僕としたことが……このままじゃ小太郎が風邪を引いてしまう。慌てて立ち上がり声を掛ける僕に、小太郎は素直に頷く。
 小太郎の前で弱さは見せたくない。
 瞳の奥に気遣わしげな色を感じたけれど、気が付かないふりをして歩き出す。

「ゴローちゃん、帰ったら一緒にお風呂入ろうよ。アイスのお礼にオレが背中流してあげる!」
「ええ? 安いお礼だなあ」
「安くない! じゃあ、髪の毛も洗ってあげるからっ」
「遠慮しとく、コタ下手くそだもん」
「ゴローちゃん酷いっ」

 僕の感情の揺れを分かっていながら、敢えてそこには触れないでくれる小太郎の優しさに甘えて、他愛のない会話に笑い合い、ぶら下がるように飛び付いて来る分身を引きずり歩く。
 琥珀とは違った温もり、違う匂い。けれど僕にとってはこれもまた、宝物のような時間なのだ。小太郎を愛しく想う気持ちにも、嘘は無いのだから。

(ごめんね琥珀、僕はまだ、帰れそうにないよ)

 心の中だけで謝罪の言葉を述べながら、僕らは家路を急いだ。



 琥珀との出会いがいつだったかなんて、記憶に残っちゃいない。
 今は別の家族が住んでいる向かいの家が、琥珀の暮らしていた家だ。士郎と同級生ということもあって、いつの間にか僕の記憶の中には琥珀の存在があった。

「コハクのしっぽ、ぼくとちがう」
「ん? ああ、俺は虎属性だからなあ。触ってみるか?」
「……っっ! うわっ、うわっ、ぐにゃぐにゃだよ? きゃはは、くすぐったい!」

 僕の記憶の一番古い記憶。もう既に「コハク」と呼んでいることから考えると、これが初めての出会いではないことだけは分かる。
 僕らを産んで亡くなった母……身体が弱くて寝てばかりいた小太郎、まだまだ大人とはいえない遺された子供たち。父親と祖父もいたけれど、所謂男所帯だ。近所の大人たちが僕らのことを気に掛けて、何かと手助けをしてくれた。

 琥珀のお母さんもそんな一人だ。
 僕らが生まれる前から、柴山家と交流のあった山牙家。母が亡くなってからは、時折夕ご飯のおかずを差し入れてくれる。そして大抵、おかずの入った鍋や皿を運んでくるのが、琥珀だった。
 あの日も小太郎が体調を崩しているの知った母親に、何かを持たされて来てくれたのだと思う。
 小太郎に掛かり切りになる兄弟に迷惑を掛けちゃいけないと、その頃の僕は幼いながら理解していた。母の忘れ形見でもある末っ子を守るのは当然のことだと、お前は手が掛からなくて助かると、事ある毎に言われ続けていたから。
 だから僕はいつも、小太郎が体調を崩すと、放っておかれた……ううん、その言い方は正しくないか。僕にまで手を回す余裕が、周囲に無かっただけ。
 琥珀はそんな僕の状況を知っていたから、おかずを届けに来ると「少しだけな」と言いながら僕を構ってくれた。
 だからきっとこの記憶も、そのうちのひとつなのだろう。

 自分の尻尾はくるんとしていて、ワサッとしていて。兄弟も皆そうだから、自分とは形状の違う琥珀の尻尾が興味深くて、よく触らせてもらっていた。
 しなやかに長い尻尾は、器用に動く。上下左右に揺れ動き、僕の首に絡みついて、尾の先で頬っぺたを擽られて。

「またな、吾郎」
「うん、ばいばいコハク」

 いつだって帰り際には優しく、飛び出したままの耳ごと頭を撫でてくれた。
 今から思えば、弱点の一つでもある尻尾を無造作に触らせてくれた琥珀の優しさに、むず痒いような気持ちを覚える。
 
 僕と一緒に生まれてきた、大切な大切な僕の分身。僕には無い煌きを持っている弟。同じに生まれたというのにか弱くて、可愛くて。小太郎といると、守ってあげなくちゃという思いが強くなる。だって僕は「お兄ちゃん」だから。
 小太郎に家族の意識が向かうのは仕方が無いこと、そう思ってはいても、やっぱり僕は、寂しかったんだ。



← (4) Back ★ Next (6) →

◆いつも応援ありがとうございます(*´∀`*)

言ってる傍から1週間も空いてしまって済みません!
お仕事決まりそうでちょっとバタバタしております……。
明日(もう今日ですね)は会社訪問に(;´Д`)
働きたくない〜〜でも萌えの為には稼がねば……。

台風が来てますね、こちらも雨がすごいです。
各地での被害がありませんように。

続きを待ってるよ!と仰って下さる優しいお方は是非クリックを┏○ペコ
村・さくらんぼ にほんブログ村 (別窓)
ランキングに参加しております。(1日1回有効です♪)
書き続ける原動力に繋がっております!読了後、お気に召したらポチッと一押しお願いします!

at 00:06, 柚子季杏, 【虎が愛でし一輪の花】

comments(0), trackbacks(0), - -

虎が愛でし一輪の花(4)

web拍手 by FC2        
 断っておくけど、僕は心から小太郎のことを大切に想っている。たった一人の、僕の片割れ。一緒に生まれて来た、大事な分身。
 それでも、言えることと言えないことがあるんだ。

「……んっ」
「ん?」
「ゴローちゃん、もっと食って。残り全部一人で食ったら、お腹壊しそう」
「だからシングルにしろって言ったのに」
「だって、チョコもストロベリーも食べたかったんだもん」

 ぼんやりと夕闇の迫る空を見上げていた僕の目の前に、食べ掛けのアイスが差し出される。オネダリに応えて買ってやったっていうのに、やっぱりか。自分の分は買わなくて正解だった。
 押し付けられたアイスを仕方ないなと受け取ると、小太郎が不意に自分の頭をこてんと僕の肩に預けて来た。

「どうした?」
「んー……オレさ、ゴローちゃんのこと大好きだよ」
「コタ――――ありがと、僕も大好きだよ」

 ああそうか、お前には気付かれていたんだな。
多分これは僕ら二人にしか分からない感覚なのだろう。普通に振る舞っているつもりでいても、お互いに感情の起伏を顕著に感じ取ってしまう。
 公園まで来たところで再び出していた小太郎の耳が、ぴくぴくと動いて僕の頬を擽る。つい先ほど出したばかりの僕の耳も、小太郎の動きに合わせて動き出す。下を向いたままだった尻尾も緩やかに揺り動かせば、小太郎の尻尾も嬉しげにパタパタと揺れた。

 ごめんな、コタ。また気を遣わせちゃったよな。
 きっと小太郎には知られているんだろう。時々携帯電話を取り出して、中に納められている写真を見ていることを。
 ごめんな、コタ。お前は僕の中の黒い感情にも気付いているんだろう。
 きっと小太郎には知られている。時折交わしていたあの人との電話の連絡が、途絶えていることを。



 僕が人間界で暮らし始めて少しした頃、長男の太郎の結婚が決まった。当然僕は、同居するものだとばかり思っていたから、太郎から連絡が来た時には動揺を隠せなかった。

「どうして? 一緒に住めば良いじゃないか、部屋だって余ってるのに」
『小太郎は気にしないかもしれんが、士郎が気を遣うだろう? 嫁さんも兄弟達も、俺にとっては大切なんだ……互いに気を遣ってぎくしゃくするより、スープの冷めない距離の方が上手くやっていけると思うんだ……すまん、吾郎』
「っ……直ぐには、無理だよ」

 僕にも始めたばかりの仕事があった。離れたくない相手もいた。それでも、太郎が家を出てしまえば、士郎と小太郎の二人だけの生活になってしまうと思えば、太郎の話に了承する以外の選択肢は無かった。仕事と家事で手一杯の士郎だけじゃ、目を離すと無茶ばかりする小太郎にまで気を回すことは難しいだろうから。

「何かあったのか?」
「琥珀……僕、あっちに、戻らなくちゃならないみたいだ」
「え?」
「どうして? 僕はいつまで良い子でいなくちゃならないの? いつもいつも、何でコタに振り回されなくちゃいけないんだよ!」

 一緒に暮らす部屋のリビングで、ソファにすっぽりと埋もれていた僕を、伸びて来た腕があやすように抱き締める。逞しい胸元に縋り付きながら涙を零し、安心出来る匂いに包まれて、思わず気持ちまで緩んでしまった。言っちゃいけない言葉まで、口から飛び出てしまったんだ。
 そう、これが僕の黒い気持ち。小太郎にだけは、絶対に知られたくはない僕の秘密。
 小太郎のことは大切で、大好きなのに。
 そう想う気持ちと同じくらい、時々どうしようもなく憎くなってしまう。小太郎と双子っていうだけで、どうして僕だけがいつも我慢しなくちゃならないのかと、口惜しさに押し潰されそうになってしまうんだ。

「なあ吾郎、本当に嫌なら断れば良い。それが出来ないのは、お前だってコタを愛しているからなんだろう?」
「だけどっ、そう、だけど……やっと、やっと……琥珀は嫌じゃないの? 僕がいなくても寂しくないの?」
「――お前が決めたことなら、俺は反対しないさ。コタだっていつまでも子供じゃない。少しの間の我慢だろう? 俺はここで、お前が帰って来るのを待ってるから」

 頭じゃ理解出来ていても、心が付いて行かずに喚く僕を、琥珀は時間を掛けて宥めてくれた。山牙琥珀(サンガ コハク)、僕らの幼馴染で、僕の恋人。
 小太郎に対して抱いている気持ちも分かってくれる彼がいなければ、僕は自分がどうなっていたか分からない。家族にも隠し続けている心を許して、甘えている自覚はある。
 小太郎とは違うベクトルで、大好きで、大切な人。



← (3) Back ★ Next (5) →

◆いつも応援ありがとうございます(*´∀`*)

週末は急な雨にも降られましたが(Rinkさんがいたのにも拘らず!)
皆さん楽しんで頂けたようで、ホスト役としてホッとしてます(*^^*)
来週辺りからまたボチボチ忙しくなって来そうなので
ようやく始めた連載が途切れないように頑張らねば!

続きを待ってるよ!と仰って下さる優しいお方は是非クリックを┏○ペコ
村・さくらんぼ にほんブログ村 (別窓)
ランキングに参加しております。(1日1回有効です♪)
書き続ける原動力に繋がっております!読了後、お気に召したらポチッと一押しお願いします!


at 00:20, 柚子季杏, 【虎が愛でし一輪の花】

comments(2), trackbacks(0), - -