2012.07.31 Tuesday
キスからの距離 (96)
北斗の想い人でもあるこの店のオーナーに軽く手を上げ、待ち合わせだからと橘川の待つ席へ真っ直ぐに向かう。
内海が入ってきたことに気が付いていたのだろう、視線を上げた橘川が、柔らかな笑みを浮かべて迎えてくれる。再会したあの日には、まともに視線を交わすことも出来ずに終わってしまったのに。
「悪い、待たせたな」
「俺もさっき来たばっかだ。ここで昼飯食っちまうか?」
「そうだな……どうした?」
内海を見つめる視線を外そうとしない橘川に首を傾げて見せれば、慌てた風に何でも無いと首を振る。そのくせ嬉しそうに口元が緩みそうになっているから、見られる内海は気恥ずかしい。
学生時代に付き合っていた頃も、同棲をしていた頃ですら、こんなに甘い眼差しで見つめられた事は無かったように思う。
面映さを感じられるのも、8年前と変わらず逃げようとした内海を、橘川がしっかりと捕まえてくれたからこそだ。弱かった内海が強くなろうと思えたのも、全ては橘川の存在があったからこそ。
「なあ悦郎、何処に行こうとしてるんだ?」
食事中も、店を出てからも、一向に行き先を教えてくれない橘川に、内海としては少々呆れ気味だ。足を進める先には映画館もショッピングモールも、ましてアミューズメントも思い当たらなかった。
「もうすぐ着くからそう焦るなって――――っと、ここだ」
「は? え……ここ……って、え……」
繁華街からは少し外れた場所で、橘川が足を止める。目線で指し示された看板を目にした内海は、予想もしていなかった展開に呆気に取られることしか出来なかった。
「ホント! マジで! お前は何も変わってない!」
「何回その話してんだよ、耳タコだっつうの」
夕食代わりに居酒屋に足を運んだのは、店がオープンするかしないかの早い時間。
突然の橘川からの提案に引っ張り回されるまま歩いた内海が、いつも以上に早いペースで酒を口に運ぶのを、橘川はニヤニヤと笑みを浮かべたまま見守っていた。
酔いが回るにつれて絡み酒になっていった自覚は、内海にもあった。それでもグラスを置くことが出来ない内海の、内に抱えた緊張に気付いていたのだろう。
店を出る頃にはほろ酔い以上の足取りになっていた内海を抱きかかえるようにしながら、橘川がタクシーに乗り込んだのは少し前の話。
「ほら、苦情が来る前に中に入れ」
「――――ん……お邪魔し……」
「おかえり」
「っ――――」
片腕で内海を抱えた橘川が空いている片手で器用に鍵を開ける。開かれた扉に一瞬躊躇した内海が、ぼそぼそと呟いた瞬間だった。玄関の内へと内海を迎え入れた橘川が、静かに掛けてくれたひと言。
「お帰り、智久……」
「悦郎――――ただい、ま……ただいま、んっ」
どんな表情をしようとか、どんな言葉を返そうかとか、そんな計算なんて全てが吹き飛んだ。込み上げて来る感情のまま、潤む視界で見上げた橘川に唇を重ね取られる。
「ずっと、こうしたかった……昼間に会った時からずっと……」
「……俺も」
啄ばむようなくちづけの合間に囁かれ、力強い腕に抱き留められれば、たったそれだけのことで背筋に震えが走った。
8年ぶりのくちづけ。遠く離れてしまった時間も距離も、この一瞬のためにあったのかもしれないとさえ思うほど、甘く蕩けていく。
背筋を這った震えは、深くなっていくくちづけの激しさにつられるように、内海の腰を重くしていく。
橘川の舌に唇の隙間を割られて入り込まれる。長く離れていた時間など感じさせないくらいに、橘川は内海を忘れてはいなかった。
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五輪で寝不足です……。
本当は全部見たい〜〜!
そして案の定☆が消えたことをお詫びします(汗)
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内海が入ってきたことに気が付いていたのだろう、視線を上げた橘川が、柔らかな笑みを浮かべて迎えてくれる。再会したあの日には、まともに視線を交わすことも出来ずに終わってしまったのに。
「悪い、待たせたな」
「俺もさっき来たばっかだ。ここで昼飯食っちまうか?」
「そうだな……どうした?」
内海を見つめる視線を外そうとしない橘川に首を傾げて見せれば、慌てた風に何でも無いと首を振る。そのくせ嬉しそうに口元が緩みそうになっているから、見られる内海は気恥ずかしい。
学生時代に付き合っていた頃も、同棲をしていた頃ですら、こんなに甘い眼差しで見つめられた事は無かったように思う。
面映さを感じられるのも、8年前と変わらず逃げようとした内海を、橘川がしっかりと捕まえてくれたからこそだ。弱かった内海が強くなろうと思えたのも、全ては橘川の存在があったからこそ。
「なあ悦郎、何処に行こうとしてるんだ?」
食事中も、店を出てからも、一向に行き先を教えてくれない橘川に、内海としては少々呆れ気味だ。足を進める先には映画館もショッピングモールも、ましてアミューズメントも思い当たらなかった。
「もうすぐ着くからそう焦るなって――――っと、ここだ」
「は? え……ここ……って、え……」
繁華街からは少し外れた場所で、橘川が足を止める。目線で指し示された看板を目にした内海は、予想もしていなかった展開に呆気に取られることしか出来なかった。
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夕食代わりに居酒屋に足を運んだのは、店がオープンするかしないかの早い時間。
突然の橘川からの提案に引っ張り回されるまま歩いた内海が、いつも以上に早いペースで酒を口に運ぶのを、橘川はニヤニヤと笑みを浮かべたまま見守っていた。
酔いが回るにつれて絡み酒になっていった自覚は、内海にもあった。それでもグラスを置くことが出来ない内海の、内に抱えた緊張に気付いていたのだろう。
店を出る頃にはほろ酔い以上の足取りになっていた内海を抱きかかえるようにしながら、橘川がタクシーに乗り込んだのは少し前の話。
「ほら、苦情が来る前に中に入れ」
「――――ん……お邪魔し……」
「おかえり」
「っ――――」
片腕で内海を抱えた橘川が空いている片手で器用に鍵を開ける。開かれた扉に一瞬躊躇した内海が、ぼそぼそと呟いた瞬間だった。玄関の内へと内海を迎え入れた橘川が、静かに掛けてくれたひと言。
「お帰り、智久……」
「悦郎――――ただい、ま……ただいま、んっ」
どんな表情をしようとか、どんな言葉を返そうかとか、そんな計算なんて全てが吹き飛んだ。込み上げて来る感情のまま、潤む視界で見上げた橘川に唇を重ね取られる。
「ずっと、こうしたかった……昼間に会った時からずっと……」
「……俺も」
啄ばむようなくちづけの合間に囁かれ、力強い腕に抱き留められれば、たったそれだけのことで背筋に震えが走った。
8年ぶりのくちづけ。遠く離れてしまった時間も距離も、この一瞬のためにあったのかもしれないとさえ思うほど、甘く蕩けていく。
背筋を這った震えは、深くなっていくくちづけの激しさにつられるように、内海の腰を重くしていく。
橘川の舌に唇の隙間を割られて入り込まれる。長く離れていた時間など感じさせないくらいに、橘川は内海を忘れてはいなかった。
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