「ああそうだ、お前が酔っ払う前に渡しとくか」
笑いを噛み殺した当真が徐に立ち上がった。サイドボードの引き出しを開けて取り出した何かを、手の平に隠した状態で戻って来る。
「お前の事だから、物をやってもどうせ喜ばねえだろ? だからまあ、俺からのプレゼントは今日の料理と酒、それと……コレな」
「え……ぁ――」
「言っとくけど、ワインは一応ヴィンテージだぞ?」
俺達の生まれ年に作られたヤツだ、と言ってニヤリと笑った当真の言葉が素通りしていくほど、片山の意識は手に握らされた硬い感触へと向けられていた。
「やるタイミング逃がしちまってたからな……次からは、それで開けて入って来い」
「と…ま……サ、サンキュ――」
「くくッ――お前の照れた顔も、悪くねぇな。なかなかそそる」
「ッ、照れてなんてねえよっ!」
赤くなった頬を指の背でスルリと撫で上げられ、余計に顔が火照ってしまう。
逃れるように顔を背けた片山は、放り投げていたジャケットを引寄せると、家の鍵やバイト先のロッカーの鍵などをまとめているキーケースを取り出し、渡されたばかりの真新しい一本を空いているスペースへと忍ばせた。
大切そうにキーケースを閉じた片山を見る当真の瞳は優しくて。
一部始終を見つめられていた事に感じた羞恥を隠すように、片山は乱雑にケースをジャケットのポケットに押し込んだ。その瞬間、指に触れた包みの存在。
「あ、そうだ。俺もお前にやるもんあったんだった」
取り出した包みを当真へと押し付ければ、一瞬驚きの色を瞳に乗せた当真が、珍しく躊躇うように片山へと視線を寄越す。
「俺に? ――開けていいか?」
「おう、開けてみろよ」
多少の緊張を感じつつ促せば、当真の綺麗な指先が、小振りの箱を包むラッピングをゆっくりと解いていく。
「へ…ぇ……いいな、コレ」
「だろっ? ぜってえお前好みだと思ったんだんだよな」
「sense of fun、か――イッキがこのブランド知ってるとは思わなかった……ありがとな」
「へへ、まあ俺だってそん位知ってるっての」
箱の中に納められていたのは、一本の携帯ストラップ。
学食で祐希の携帯に付いていたストラップを見た瞬間、コレだと思った。シンプルでありながら品があり、品があるのに落ち着き過ぎの感も無いそれに目を奪われた。
『それっ、何処で売ってんですか? 幾ら位するんですか?』
『え? ああ、ストラップ? これは誕生日に2番目の兄貴がプレゼントしてくれた物なんだ。だから値段は良く分からないけど…sense of funっていう日本ブランドで出してるやつだよ』
あんまりメジャーなブランドじゃ無いんだけど、と言って微笑んだ祐希から場所を聞き出した片山は、翌日には目当ての品を求めてその店へと買いに走った。
緊張しながら飛び込んだ店の中、ショーケースに並べられていた数種類のストラップ。
その中で目に留まった一本。
濃い茶の皮で作られた持ち手は輪を作っており、表面には型押しで小さな雪の結晶がワンポイントで入っていた。持ち手の先には燻し銀で作られた同じ雪の結晶が取り付けられ、携帯へと通す紐部分の変わりに付いていたのは、極細のシルバーチェーン。
これなら当真も気にいる筈と、即決で購入して来た一品への予想通りの反応に、片山は得意気な笑みを唇へと乗せた。
「一輝――」
「っん……ぅ」
不意に首の後ろに回された手に引寄せられ、笑みの浮いていた唇を塞がれる。ワインの香りを残したくちづけに、アルコール以上に酔わされてしまいそうで。
一頻り片山の口腔を蹂躙すると、官能的な厚みのある唇が名残を惜しむように、軽く下唇を食んで離れていく。濡れて淫靡な光を纏うその唇へと吸い寄せられるように、片山は潤んだ眼差しを寄せた。
「物足りねえって顔しやがって……続きは、後でたっぷりしてやるよ」
色の滲んだ口角を持ち上げた当真が艶然と微笑む。離れ際に項をスルリと撫で上げられた片山は、赤くなった顔を隠す事も出来ないまま、目の前の料理へと箸を伸ばすのだった。
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◆いつも応援ありがとうございます゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
旧ブログからの引越し作品になります。
以前の更新時のままの文章です。誤字脱字等直していません。
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こんなに多くの記事を更新して来れたのも、読みに来て下さる
皆さまの応援あってこそと嬉しく思います゜+.゜.(⊃Д`*)゜+.゜
この先も細々続けていければなぁと思っていますので
息子達共々、構ってやって頂けましたら幸いです(*・ω・)*_ _)ペコリ
さて、ボチボチ……ですかな?
続きが気になる方は、そろそろ筆が重くなりそうな作者へ励ましを!(平伏
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