【J庭37ペーパー】クローバーの幸せを
J庭37新刊「虎が愛でし一輪の花」の通販はコミコミスタジオ様に依頼しております。
自家通販の予定はございません。
おかげさまで手元にも在庫は残っておりませんので、よろしければこちらをご利用下さい┏○ペコ
現在コミコミさんのサイトでは【予約】の文字が外れ、購入可能になりました。ご予約下さっていた皆さまの元へも、間も無く到着するかと思います♪
もうひとつのスピンオフ、「蕾は愛で花開く」の電子版も配信中→ パブーさん
小太郎のお兄ちゃん、士郎のお話になっております(´▽`*)
具有本ですので好みが分かれるかとは思いますが、宜しければこちらも是非♪
予想以上にお手に取って頂いたので、最後の方にはペーパーも切れてしまいまして、数名の方へはお付けすることができませんでした。申し訳ございませんでした(ノД`)・゜・。
感謝の気持ちも籠めまして、秋のお庭で無料配布させて頂きました「虎が愛でし一輪の花」の書下ろしSSを公開させて頂きます。少しでもお楽しみ頂けましたら幸いです(*´ω`*)
Illustration希咲慧さま
無断転載は固くお断り致します。
◇◇◇◇◇
雪解け水が流れ込む小川沿い、タンポポやシロツメクサの小さな花が、待ち侘びた春の訪れを喜ぶように風に揺れる。
「あ、メール……わっ、銀さんッ、銀さぁん!」
日の当たる場所に座り込んでスケッチをしていた小太郎は、携帯に届いた一通のメールに満面の笑みを浮かべ、スケッチブックを放り出して駆け出した。向かう先は愛しい恋人が土を捏ねる作業場だ。
「銀さん、見てこれ! ゴローちゃん使ってくれてるよ!」
「……ああ、良かったな」
近付けられ過ぎて見えない携帯の画面をそっと引き離した銀の視界に、あの日二人へと贈った自作の皿に盛り付けられた食事の写真が写る。嬉しそうに微笑む小太郎に笑い掛ける銀の心にも、温かな風が吹いた。
「よしっ、こんなもんかな」
小太郎の携帯へとメールが届く少し前、小太郎の暮らす自然に溢れた場所から車で数時間離れた賑やかな人間界のとあるマンションでは、台所から満足気な声が聞こえて来た。
「お、美味そう」
「つまみ食いは駄目だからね! っと、写真撮らなくちゃ!」
「写真?」
「コタに送ってあげようと思って……ほら、折角のプレゼントだし」
大柄な男が皿に盛り付けられたフルーツへと伸ばし掛けた手を、小柄で眼鏡を掛けた青年がペシリと叩く。
小太郎とそっくりの顔をした青年が、興味深そうに首を傾げた大柄の男の視線を受けて、僅かに恥ずかしそうに顔を俯けた。それでも青年は取り出した携帯で皿の料理を写真へと収めて行く。嬉しげな表情を見た大柄な男が、口端を持ち上げた。
「そうか。吾郎に使ってもらえて、コタも銀さんも喜ぶんじゃないか?」
「銀さんは別に、どうでも良いんだけどさ……もういいからっ、琥珀は料理運んでよ!」
「はいはい、仰せのままに」
照れ隠しに声を張り上げる吾郎と呼ばれた青年の言葉に笑いながら、大柄な男、琥珀が言われた通りに皿をテーブルへと運んで行った。
四葉のクローバーを模した特殊な形の皿の上、四つに区切られたそれぞれの場所には、スクランブルエッグ・ボイルウィンナー・グリーンサラダ・フルーツが盛られ、ガラスの器に入れられたヨーグルトとパンが別皿に用意されている。皿の形と同じく、クローバーの形をしたカップには、琥珀用のブラックコーヒーと吾郎用の甘いカフェオレが淹れられていた。
吾郎が人間界へと戻って来て、まだ数日。梟族のお爺さんが店長を務める以前の職場への復職は決まっているけれど、あと何日かは人間 界に馴染むための慣らし期間だ。
遅番の琥珀と並んで食べるブランチに、吾郎は幸せだな、と思った。
こうして再び二人での生活を始めることが出来たのも、小太郎が自立へ向けて頑張ったからこそ。そして今日のブランチを盛り付けた皿とカップは、小太郎から二人の新たな旅立ちへのプレゼントだった。
皿の底面には【G・K】と、小太郎とそのパートナーである銀の二人が営む陶器ショップのロゴが刻印されている。売り物では無いというそれらの食器は、吾郎と琥珀のためだけに作られた、世界にたったひとつのペア食器だった。
「うん、美味い……」
「……大した物は作ってないよ」
こんもりと盛られた琥珀の皿の料理が、あっという間に減っていく様子を眺めるだけでも幸せで、吾郎の顔にも笑顔が浮かんでくる。
これからは毎日、こうやって二人で食事を一緒に取って、同じベッドで眠ることが出来るのだ。寝る時にはおやすみと言い、朝にはおはようと挨拶を交わすことが出来る。喧嘩をしてもきっと、互いの顔が見られる距離にいれば、直ぐに仲直りも出来るだろう。
そんな普通の日常を、どれ程待ち侘びたか知れない二人だからこそ、今感じるこの小さな幸せを忘れることは無いに違いない。
「……あ、メール返って来た」
「俺にも来たぞ……ははは、どうする、吾郎?」
「う……まぁ、別に、僕はどっちでも……琥珀が良いなら、良いけど」
吾郎の双子の弟、小太郎からの返信に笑い出す琥珀と、微かに眉を寄せる吾郎。
―― Sub:美味しそう!
ゴローちゃんのご飯、オレも食べたい!
今度銀さんと一緒に遊びに行っても良い?
オレね、ゴローちゃんのハンバーグ食べたいんだ♪
銀さんも喜ぶと思う! それからお皿、使ってくれ
てありがとう、すっごく嬉しい♪
コタ ――
俺はいつ来てくれても構わないぞ、とニヤニヤ笑う琥珀を軽く睨み付けた吾郎は、それでも小太郎に了承の返信を送った。
吾郎としても、今となっては銀のことも認めているのだ。大切な弟を任せても良い相手だと。まだちょっぴり素直にはなれないけれど、小太郎が琥珀と吾郎の幸せを願うように、吾郎もまた小太郎と銀の幸せを願っている。
「そろそろ行かないと遅刻するよ」
「マズイ、行って来る!」
お前の気持ちなどお見通しだと微笑む琥珀の眼差しが気恥ずかしくて、時計を指差す吾郎の言葉に、琥珀が慌てて席を立つ。
「ちょ、琥珀っ!」
「忘れ物……じゃあな、行ってきます」
「……何だよもう……行ってらっしゃい、早く帰って来てね!」
薄桃色に色付いた、琥珀からくちづけられた頬を撫でながら、吾郎も少しだけ素直に気持ちを言葉に乗せた。
四人と四枚、クローバーの葉は多分、彼ら四人の幸せの形。
END 2014.10.19
【虎が愛でし一輪の花:目次】
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at 21:45, 柚子季杏, 【虎が愛でし一輪の花】
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