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黒猫とチョコレート (4)

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最後の客を送り出し、ようやくまかないの時間がくる。
明日は水曜日で定休日だということもあってか、一週間の疲れがドッと押し寄せてくるような気がする。

「俺も歳かな――――」
「何?」
「何でもねえよ……それより、楽しかったか?」
「え?」
「え? 遊んできたんだろ?」
「あっ、うん! 楽しかったよ! 春海さんの友達のところに一緒に行って来た」

店の開店時間ギリギリに戻って来た多紀に今日の事を話題として振れば、怪訝な顔で返されて。慌てて答える態度がどことなく普段とは違っていて。

「友達?」
「えっと、カフェやってる人で、専門学校の時に同級だったんだってさ」
「……ふぅん」

うろうろと視線を彷徨わしながらの受け答えに腑に落ちない部分はあったけれど、街中が浮かれている恋人同士のイベントデーに喧嘩をするのも本意ではない。

「さあて、とっと片付けて上に行くか」
「店の方は終わったから、オレが洗うよ。雄大は先上がってて良いよ」

わざと矛先を逸らした俺にホッとしたのか、多紀は急いで最後のひと口を頬ばると、食器をまとめてシンクへと運んだ。

(分かってんのかねえ……一応、お前の好きなオムハヤシにしたんだけど)

苦笑を浮かべながらその後姿を少しの間眺めた俺は、多紀の言葉に甘えることにした。

「んじゃあ先に行ってるぞ? 適当でいいからな?」
「分かった」

本当は多紀が風呂に入っている間に準備しようと思っていたのだけれど、折角だから上がってくる前に準備しちまうかと、少し急ぎ足で自宅になっている二階へと向かう。
真っ直ぐにキッチンへ行き、冷蔵庫に冷やしてあった例の品を切り分け、自宅でなど普通ならば絶対にやらないデコレーションまで施した。
多紀用には紅茶と、自分用のコーヒーを用意し終えたところで、自宅玄関の扉が開く音が聞こえてくる。

「いらっしゃいませ」
「うわっ! え? 何……何やってんの?」

対面式のキッチンと繋がっているリビング扉の前で待ち構えた俺は、扉が開くと同時にギャルソンよろしく頭を下げて多紀を出迎えた。
少しはうけるかと思ったのだけれど、多紀の反応はといえば冷たい視線を向けられるだけで、照れ臭くなって咳払いで誤魔化した。

「まあまあ、良いからこっち来いよ」
「え? てか雄大、まだ着替えて無いの? 何してたの?」
「良いからっ! ほら、ここ座って」

訝しむ多紀の背を押しながらダイニングテーブルへと座らせれば、いつもと違って綺麗に整えられているテーブルの様子に、多紀が大きな瞳を見開いた。

「……クロスが敷いてある……ってか、花まであるし……」
「お客様、本日のデザートは如何ですか?」
「デザート?」

男の一人暮らし、いつもならば雑然と物が積み上がってるテーブルの上の物をどかし(下に寄せて置いただけだけれど)店で使っているクロスを一枚。
邪魔にならない程度に端に寄せた一輪挿しに、これも店に飾ってある花瓶から数本拝借してきた花を活けておいた。

「本日のデザート、ガトーショコラになります」
「ぅ、わ……」

呆気に取られたのか大人しく腰を下ろした多紀の目の前に、先ほど生クリームと粉砂糖で飾り付けをした皿を置く。柄にも無く、白い皿にはラズベリーのソースで『 I Love You 』なんて書いてみたりもした。

「――――キャラ違ってない? オレなんかにこんなの出さないで、店で出せばいいのに」



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at 00:16, 柚子季杏, 【 黒猫と恋をしよう 】

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